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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)637号 判決 1969年4月15日

主文

原判決を破棄し、本件を福岡高等裁判所宮崎支部に差し戻す。

理由

上告代理人利岡晴樹名義の上告理由第一点ないし第三点について。

建物所有を目的とする借地契約において、その借地上の建物に対し通常の修繕の域をこえる大修繕をした場合には、その建物の築造後の経過、修繕前の状況、修繕の実態、修繕当時の老朽の度合、賃貸人の修繕についての態度、その他諸般の事情があるときには、その借地契約は、右建物が現実に朽廃していなくても、その修繕前の建物が朽廃すべかりし時期に、終了するものと解されることのあることは、当裁判所の判例(当裁判所第一小法廷判決昭和四一年(オ)第三〇〇号、同四二年九月二一日民集二一巻七号一八五二頁参照)とするところである。したがつて、原判決の判示するように、本件各家屋の敷地の一部が建設省に買収された当時本件各家屋は建築後三〇年余も経過して外観上かなり老朽化している部分が看取されるような状態であり、また、本件記録、とくに、《証拠略》によると、本件各家屋の構造と移転前の各家屋(以下旧家屋という)の構造とはかなり異なり、かつ、本件旧家屋の老朽の度合は概して非常に進んでいたような事情がうかがわれるのであり、このような事情のもとでは、事実審たる原審としては、ただ単に本件旧家屋が朽廃したかどうかにとどまらず、前記判例の趣旨に従い、本件各旧家屋の移築前の状況、本件旧家屋の構造と本件家屋の構造の異同とその異同の生じた事由、移築にさいし修繕・増改築された本件各家屋の材料関係(たとえば旧家屋の材料および新材料の用いられている範囲・部位およびそうしなければならなかつた事由)本件各家屋の移築のさいの賃貸人たる上告人の態度その他諸般の事実関係を確定したうえで、果たして本件借地契約が本件各旧家屋の朽廃すべかりし時期に終了するかどうかを慎重に決して判断しなければならないところである。

しかるに、原判決は、移築後の本件各家屋の材料、移築関係の事実の一部を確定しただけで、本件各家屋に、前記買収の当時、修繕・増改築がされたけれども、いずれも建物の移築に伴うもので、その同一性を失わせまたは新築に近いほどの大改造・大修繕といえるものでなく、その耐用年数も経過していないから、本件各家屋は借地法二条一項但書にいう朽廃にあたらないとして、上告人の借地契約の終了に伴う本訴請求をすべて否定したのは、法令の解釈・適用をあやまつた結果、審理不尽の違法をおかしたものというべく、この点の違法をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

なお、付言するに、本件は、国道建設という公共の目的のためにされた土地の買収に伴い、本件各家屋が移転を余儀なくされたというのであるから、その移転に伴う通常の修繕などをすることは当然許されるべきものであるが、本件各家屋の修繕・増改築が通常の修繕といえるかどうか、さらに本件各家屋の構造・朽廃その他前記説示した事実関係に基づき、その朽廃または朽廃すべかりし時期を認めるかどうか、これを認めるとしてもその朽廃すべかりし時期が同一であるかどうかについて、慎重に考慮されなければならない。

よつて、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻すことにし、民訴法四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 飯村義美 裁判官 田中二郎 裁判官 下村三郎 裁判官 松本正雄 裁判官 関根小郷)

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